DINER ( Web Magazine )

September 2017

BEAN to BAR カカオ豆からつくるチョコレート

カカオにこだわり カカオを表現していく

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アメリカとヨーロッパ、
そして日本のビーントゥーバー

豆の仕入れから製造まで、すべての過程をひとつのメーカーで仕立てる「ビーントゥーバー」のチョコレート。
アメリカとヨーロッパを中心にムーブメントを巻き起こしてきた新しいチョコレートの提案に、日本でも複数のショップがオープンするなど、大きな注目が集まっています。

2014年12月、渋谷・富ヶ谷にオープンした「Minimal」は、山下さん、朝日さん、田淵さんの3人を中心としたビーントゥーバーのチョコレートショップ。お店に入ると、すっと心地良いチョコレートの香りが。カウンター越しに見える工房で、カカオの粒子が残るザクザク感を特徴としたチョコレートが作られています。

今、なぜ「ビーントゥーバー」がこんなに盛り上がっているのでしょうか?
そんなシンプルな疑問を、山下さんに聞いてみることにしました。

ビーントゥーバーの潮流

――今、「ビーントゥーバー」が注目されている状況に対して、内側から見てどのように感じていらっしゃるのですか?

僕らとしては、今年くらいには絶対に来ると思い始めているので、ある程度想定はしていました。加速度という点では予想より少し早く、今はピークの状況で、来年には当たり前になるのか廃れてしまうのか。もちろん、当たり前のものとして根付かせていきたいと思っていますが。

――なぜ、注目されるだろうと予想を?

ビーントゥーバーには2つの流れがあって、それが合流して今、注目されている状況だと思います。一つは、アメリカでのスモールバッチ(少数生産)。ある意味素人のような人たちが、サブカルチャー的に少数生産で始めた流れ。もう一つは、ヨーロッパでショコラティエの人たちが、良いものを作りたいという思いから素材に回帰した流れ。言葉としては、2007年頃からアメリカ発信で出てきたものだと思いますが、ややニュアンスの違うこの2つの流れが「ビーントゥーバー」という言葉でくくられて、ホットな話題になっているのだと思います。

僕は、もともとコンサルタントだったのですが、会社を辞めてこの店を立ち上げる前に2ヶ月ほど、アメリカとヨーロッパを回り、有名なチョコレートショップや工房を訪ねました。そのときに共通して感じたことは「豆の波が来るな」ということ。それぞれ話を聞いていくと、アメリカの人たちも、ヨーロッパのショコラティエの人たちも「カカオ豆・素材が大事」だとおっしゃいました。チョコレートはカカオ豆無しには成り立たないものなので、豆という本質の部分に注目が集まるのは自然な流れだと感じました。

――印象に残っているお店はありますか?

アメリカではやはり、代名詞のようになっていますが「マストブラザーズ」。自分たちのアイデンティティをデザインを含めてアウトプットするのが上手だと思います。カルチャーをいかに格好良く見せていくかということですが、イタリアの紙を使ってパッケージにまとめていて、デザインの力がすごく発揮されている。もちろん、素材がしっかりしていることが前提ですが、今までのチョコレートには無いデザインと切り口で、チョコレートを買うというよりは、「デザインを含めたマストブラザーズというおしゃれ」を買う。商業的にきちんと展開していて面白いなと思いました。

ヨーロッパでお話を聞いたのはショコラティエ出自の方が多かったので、やはり華やかで高級感のある印象です。店舗は限定できませんが、あえて言うならドモーリ。お話は聞いていないのですが、(創始者の)ジャンルーカ氏はクリオーロ種にこだわりプランテーションも行っていて、カカオという意味での最先端は彼だと思います。

――アメリカ、ヨーロッパでの流れを受けて、今の日本の状況に特徴はあるのでしょうか?

日本では10年前くらいから、ワインの分野で素材と作り手のこだわりを楽しむことが開拓され、それが4~5年前にスペシャルティーコーヒーの流れになり、火がつきました。「素材回帰をしながら、こだわりを楽しむ」という文化の下地があり、その土壌にチョコレートが受け入れられるのは自然なこと。今は専門店と言われるものは数少なく、良くも悪くも特徴はできていない段階だと思います。

Keywords of Bean to Bar|ビーントゥーバーを紐解くキーワード

文・編集部

Single origin
シングルオリジン

ブレンドされていないため、生産地が明快な豆。ヨーロッパのビーントゥーバーでは、自社農園を抱え、最高級のカカオ豆を生産するところから取り組んでいるメーカーも。

Direct trade
ダイレクトトレード

仲介者の存在するフェアトレードから発展し、生産者個人と直接取引をすること。ビーントゥーバーにおいては、カカオ豆を生産する中南米、西アフリカ、東南アジアなどの生産者との取引。豆にこだわるビーントゥーバーは、生産者との良いパートナーシップが必要不可欠。

Originality
オリジナリティ

豆の選別から製造まで、作り手の個性が表現されるビーントゥーバー。マストブラザーズをはじめ、オリジナリティをより良く伝えるためのデザイン戦略に対する注目度も高い。

Indipendent
インディペンデントな工房

作り手のこだわりが詰まった工房。大きなメーカーによる製造が当たり前だったチョコレートの分野に、異業種出身者を含めた独立系の作り手が参入。豆の選別、焙煎、磨砕、調合、成形といった過程のすべてにこだわり、自社工房でチョコレートを仕立てる。

Traceability
トレーサビリティ

消費者に届くまでの過程がきちんと見えること。ビーントゥーバーは作り手が一貫して仕上げるために製造過程のトレーサビリティが明快なのはもちろん、カカオ豆にこだわり仕入れているため、原料までがクリア。

チョコレートの本質とMinimalの提案

――アメリカとヨーロッパの旅から日本に戻り、どのような店にしようと思ったのでしょうか?

僕の夢は、日本人のきめ細やかさを活かして、日本発信の世界的なブランドを作ること。この国において意味のある仕事をしたいなと思います。志は大きく(笑)。日本のきめ細やかな国民性や文化は、サービスになるとホスピタリティやおもてなし。技術では伝統工芸に代表されるような細やかな技術としてアウトプットされると思います。でも、それをうまくアウトプットしてマーケティングしながら世界を舞台にビジネスしていく部分が片手落ちだったり、逆にマーケティングはうまくいっているけれど、実はハリボテで技術が無いものだったり、どこかアンバランスな部分があると感じていて。なので、国民性や文化をブランドとして立てながら、海外にその良さを伝えていく。地域や職人さんにきちんと対価を支払うことで、地方格差や職人さんの後継者問題などを改善していければうれしいです。日本や地域の活性に少しでも寄与できることをブランドとしてやっていきたいと思っていまして。

その中で、西洋発のチョコレートという分野の中でも、Bean to Barという新しい分野で日本人ならではのきめ細やかさをもって挑戦することは面白いのではないかと思いました。もう一つは、素材をもっとダイレクトに表現していきたいということ。ショコラの世界は、ミルクやバターを混ぜて滑らかにしていくプラスアルファの考え方です。でも、チョコレートの本質はカカオ。その本質以外をそぎ落とし、カカオというものを表現することを、新しい価値として伝えていきたい。その価値を定義することが本当の意味のビーントゥーバーだと思っていまして、店名も最小限という意味の「ミニマル」と名付けました。

――職人の朝日さん、オペレーションを担当している田淵さんとの出会いはどのように?

朝日は、中目黒でスペシャルティーコーヒーの店をやりながら、約2年前からビーントゥーバーを始めていました。コーヒーが好きで彼の店に通っていたのですが、彼のチョコレートの味を知ったときに衝撃を受けまして。当時、ビーントゥーバーという言葉を知ってはいたものの、彼のチョコレートはカカオというものをしっかり表現していることに驚きました。彼はイタリアでワインのソムリエ、バリスタとしても修行を積んでいたのですが、イタリアは素材文化なので、素材をどう表現するかということは彼のDNAに刻まれているのでしょう。田淵は、大学の同級生。もともとIT業界の出身で、今後はEコマースなども彼を中心に展開しようと思っています。もう一人、財務のプロフェッショナルもいます。日本では、食の分野でベンチャーという気質があまりフィーチャーされていないですが、僕らはスタートアップベンチャーだと思っている。個人が趣味で店をやっている感覚は全く無いですね。

――ビーントゥーバーの楽しみ方としては、どのような提案をしていきたいと思っているのですか?

僕らは、カカオの味わいと香りを、自分たちなりに大きく3系統に分けています。ナッツ感のある「NUTTY」、酸味のある「FRUITY」、そして香りの良い「SAVORY」という3ラインです。その軸をもとに、カカオ濃度やなめらかにしていくコンチングの製造方法などに変化を加え、今は8つの異なる味わいのチョコレートとしてお出ししています。例えば、ワインには「FRUITY」がよく合いますし、ラムやスコッチなどは味わいが長く残る「SAVORY」もおすすめです。シンプルですがこくのある「NUTTY」は、コーヒーに合わせていただいても良いと思います。本当に素材の活かし方で味が変わるのが面白いんです。レーズンみたいな味わいだったり、ミントのような香りが出たり。今後、「アロワコ」という、現在僕らしか扱いが無いであろうという豆を仕入れる予定です。この豆はグレープジュースのようなクリアな味わいがします。僕らのザクザク感のあるチョコレートは、ショコラの世界では王道ではないと思います。でも、カカオの粒子を味わっていただいて、その粒子をかむことで弾ける香りを楽しんでいただくこと。カカオにこだわって、カカオを表現していく。そこにある新しい発見を提案していきたいと思っています。

( about DINER )

「どこで、だれと、なにを食べようか?」

DINERは「食事の時間」をテーマにしたウェブマガジンです。2014年春、Food & Design Postというニュースサイトとしてスタート。2016年春のリニューアルを経て、現在は東京の飲食店取材を中心に活動しています。2017年春には、ノンアルコール飲料ブランド「SHE LAUGHS」も始めました。