DINER ( Web Magazine )

September 2017

本を作りにインドへ。モノづくりの旅レポート!最終回
『インドでしか作れない、手作りの本の味』

category / BooksReport
( 2015/06/09 )

color of pahi

フォトグラファー/アーティストの原田恵梨さんによるコラムが最終回を迎えます。アクセサリーブランドpahiとのコラボブックを、インド・シャイプルでの制作にこだわり仕上げた原田さん。インドでの暮らしや、ブロックプリントという伝統工芸、そして印刷と製本の作業まで、「現代のモノづくりに欠けていることは何か、大切なことは何か」を問いながら、手仕事や直取引で行うクリエイティブの醍醐味と苦労を、ありのままに届けてくれました。いよいよ、完成した本のお披露目です。

撮影から印刷、製本までの全工程をジャイプルで仕上げた、今のインドでしか作れない本が届きました。
インドから日本へのシッピングも大きな心配事の一つだったので、日本に帰った私の手元にすべての本が届き、ほっとしています。pahiのデザイナーの緑川さん、佐藤さん、私と三人三様で選んだ、ブロックプリント生地の色鮮やかな表紙。最終日に印刷会社の青年たちと指が痛くなるほどちぎった、手ちぎりの本の帯。この本には、ラジャスターン地方の色彩や空気、モノづくりに奮闘中のpahi、そして私に気付きを与えてくれたエピソードが写真や詩とともにつづられています。

color of pahi

初版500冊を制作したのですが、二度と同じ本は作れません。これぞ今のインドでしか作れない、手作りの本の味だと自分に言い聞かせていますが、一冊一冊の仕上がりが少しずつ異なります。紙を3種類ほど使っている……使うはめになったために、厚みや写真の出方が違うのです。ハンドメイドペーパーは、人間の手から一枚一枚作り出されているため、私の選んだ紙は270ミクロ~350ミクロという厚みのばらつきがあり、安定した写真の印刷をすることは困難でした。3つの印刷会社を渡り歩いた苦労話もお届けしましたが、それにしてもすべての出来事や工程が現実離れしていて、あれが自分の身に起ったことなのか……と、あの戦いの日々を客観的に見ている現実社会の自分がいます。しかし今、こうして手元にある本のページをめくるたび「諦めなくて良かったな」と、指先から伝わる感触に、感傷的な気持ちにさせられます。「ラジャスターン地方の色をおさめた写真に紙が合っているね」「手触りの良い温かみのある本だね」とのフィードバックをいただくと、「執念深く粘って良かった」とあらためて思います。

color of pahi

color of pahi

少しだけ、特に気に入っているページを紹介します。近所の公園での早朝ヨガを通じ、声をかけモデルを頼んだマダムの写真はラスト2日目にして印刷所のトラブルに見舞われ、紙を無駄にされ、このクオリティーでしかできないとサジを投げられ、屋上で号泣したのちに「あなたたちにプライドは無いのか? インドの底力を見せてくれよ、頼むよ……」と熱意を伝え、深夜にバイク3人乗りで紙のマーケットがあるエリアまで大きな月に見守られながら走った夜を思い出す一枚。「ここが正念場だ!」と自分に言い聞かせていたものの、その後も、きりがないほど試練が続く……それがインドでのモノ作りなのでしょう。

color of pahi
ブロックプリント工場の写真は寡黙な職人さんの姿や、白い生地をキャンバスに、彫られた木を楽器としてリズムを奏でていた、その音を思い出します。この書籍の中で数少ないフィルム撮影のページです。

color of pahi
漆黒に輝く黒髪を持つイスラム教徒の親子。長い滞在で地元の方と打ち解け撮らせてもらえた一枚。イスラム教徒の住むエリアではヒンディー教徒のエリアよりも写真を拒まれることが多かったです。

color of pahi

こちらは、春を祝うホーリーフェスティバル(カラーフェスティバル)の前日。ラジャスタニーダンスを舞うプロの踊り子を、民衆に混じり望遠レンズで狙っていたところ、「そこのヤパン(日本人)!舞台に上がってこい!」とMCに呼ばれました。民衆から「行け!上がれ!」とあおられ、モーゼの十戒のように開かれた道を通って舞台に用意された椅子に座り2時間、おおいに撮影を堪能させていただいたときの一枚です。見ての通り民衆は男しかいなく、「ブラジリアンダンスは踊れるか?」と言われ、「いや〜まずいな〜、よりによってブラジリアンダンスって腰をくねくねするやつでしょ……でもこの状況で引けないな、日本代表として踊るしか無い!」と決心し、「はい!踊ります」と踊らされたという逸話があります。オーディエンスの反応はイマイチ。そりゃそうだ。

ホーリーフェスティバル

それから、本の106~107ページには、インドを通して私が体験した生の実感、今を生きていることを学んだ、具体的な話が載っています。このプロジェクトで私はインドという惑星から人生や魂の重さ、生の実感、多くのことを学びました。仕事上では悲惨な状況が続いていましたが、あくまでもこれは私のインド体験談。よく言えば自分の中の新しい自分を発見し、悪く言えば自分の底を丸裸にされたような、ここに書ききれないほどの素晴らしい学びや出会いがありました。「あそこまで感情を剥き出しにしなければモノって、でき上がらないんだっけ(笑)。恐るべしインド!強敵だ!」とつぶやきたくもなりますが、まさにインクレディブル! 今を、そしてこれからをどう生きるのかという気付きをこの国は与えてくれました。

ホーリーフェスティバル

ガールズジャイプール」というサイトを立ち上げ、ジャイプルを生活拠点としてモノづくりに励んでいる友人がいるのですが、「本来モノづくりって、これくらい時間がかかる行為なのかもしれないよ。今は良くも悪くも便利になりスピードの円滑さが求められる一方、プロダクトとして味気ないもので飽和している」という言葉をもらいました。一理あるなと思います。プロセスにこそ、成長を促すヒントやチャンスが隠されているのかもしれません。

また、旅は異質な文化や伝統にふれ、さらに多様な価値観が存在していることを学び、見識を広める知的行動だと思っています。心地良い旅の思い出を夢の中でもう一度思い出すのは美しいことですが、しかし心地良いものだけが旅とは限らない。少し大げさですが、この本を通してみなさまが、それぞれの日々の生活を少し見つめ直すきっかけとしていただけたら幸いです。インドでモノづくりに励んでいるpahiの活動からも、挑戦することの素晴らしさを学ばせていただきましたので、私と同じく彼女たちから刺激を受ける人が現れてくださることも、楽しみにしています。

書籍情報
『color of pahi』
価格  3,300円+税

取扱い店舗
代官山 蔦屋書店
https://tsite.jp/daikanyama/store-service/tsutaya.html

nostos books
http://nostos.jp

本屋B&B
http://bookandbeer.com

トークイベント情報
「インドで物作りの原点にかえる」
原田恵梨×緑川りお×佐藤くに×ミシュラ京子

開催日  2015/6/12(金)
時間   20:00~22:00※先着50名
場所   本屋B&B
     世田谷区北沢2-12-4 第2マツヤビル2F
入場料  1,500+ドリンクオーダー
予約(B&B公式サイトより予約可)
http://bookandbeer.com/blog/event/20150612_india/

( about DINER )

「どこで、だれと、なにを食べようか?」

DINERは「食事の時間」をテーマにしたウェブマガジンです。2014年春、Food & Design Postというニュースサイトとしてスタート。2016年春のリニューアルを経て、現在は東京の飲食店取材を中心に活動しています。2017年春には、ノンアルコール飲料ブランド「SHE LAUGHS」も始めました。