DINER ( Web Magazine )

December 2017

本を作りにインドへ。モノづくりの旅レポート!
Vol.4『表紙に施したブロックプリントの魅力』

category / Report
( 2015/05/07 )

本を作りにインドへ。モノづくりの旅レポート

フォトグラファー/アーティストの原田恵梨さんによるコラムの第4回目は、表紙に採用した「ブロックプリント」について教えていただきます。アクセサリーブランド「pahi」とコラボレーションで、インドでの本づくりにチャレンジしている原田さん。約2か月に及ぶインド滞在から無事日本に帰ってきたところで、原稿が届きました。手作業のブロックプリントで一つ一つ生み出された模様は複雑で、本当に美しい。インドの手工芸、ブロックプリントとは、一体どのような手法なのでしょうか?

無事、帰ってきました! 現在、帰国して約一週間が経ったところです。時差は3時間半インドが遅いだけですが、それでも2カ月滞在したので体はまだインディアンタイムのまま。朝方4時に眠り10時に起きる生活になっています。今回は、布張りの表紙に採用したインドの伝統的な手工芸「ブロックプリント」についてお伝えしようと思います。

本を作りにインドへ。モノづくりの旅レポート長~い生地にスタンプのように版を押す作業

ブロックプリントは、木のブロックに手彫りで版を掘り、それを長い生地にスタンプのごとく押していく、途方も無い作業です。リズムよく的確な場所に版を押して行く作業は、一日見ていても飽きません。繊密なデザインになると、ブロック制作に2〜3ヶ月費やすようで、その際の費用は日本円で12万~15万円と言っていました。もちろんデザインの細かさ、大きさによりますが。

本を作りにインドへ。モノづくりの旅レポート表紙は3色なのでブロックも3版

色を作る工程でも、驚きがありました。私たちの表紙の生地は3色なので、ブロックを3版作ってもらいました。私は趣味でシルクスクリーンプリントをやります。その際には、いつでも同じ色が作れるように、毎回レシピをメモに残すのですが、インドの工房ではバインディングも目分量。よくトイレにお尻を洗う用の小さな洗面器が置いてあるのですが、それを手に持ち、肘までをワイルドにつっこみ色を調合していきます。顔料も目分量。

いつもシビアに計量し、おたまでバインディングを取っている私からみたら、実に面白い光景でした。大雑把さに心のゆとりを感じました。「ちまちまやっていたら何事もできないぞ、何者にもなれないぞ、大胆になれ!」と励まされている感じ(笑)。

本を作りにインドへ。モノづくりの旅レポート独特な温もりを生み出す手彫りの版

ブロックプリントは手彫りの版なので、デザイン自体にシャープさよりも独特の温もりが感じられます。色が重なったり、アウトラインからはみ出したりしても、それがブロックプリントの味。生地制作ではデジタルプリントが主流となりつつありますが、忍耐強く作業されている職人さんの仕事を目の当たりにすると、人の手から生み出される物、芸術、人間の可能性を感じさせてくれます。

今回は、3人3様(pahiのデザイナー2人と私)で好みの色を選び3パターンの表紙を作りました。色鮮やかな仕上がりは、題名の『color of pahi』に合っていると思います。私は優柔不断で、配色を決めるのに早朝の2時間も費やしました。クーラーが無いので網戸の無い窓を開け、蚊にうなされ4時起床。近くに寺院があるため、この時間に宗教音楽が町中に響き渡ります。隣りの庭は牛糞を乾燥させ肥料を作るお宅なので牛たちが目覚め、のら孔雀が鳴き出し、猿も目を覚ますという環境。熱さのあまり、バスタオルを水で濡らし、体に巻き、上半身裸でヨガマットに寝転び屋上で色を決めていました(笑)。すべてが良い思い出です。

本を作りにインドへ。モノづくりの旅レポートついに中面の量産印刷も!

ちなみにコラム第3回を読んでくださった方は、2社目の印刷会社にも裏切られ、帰国直前まで別の印刷会社を探していたことを覚えているでしょうか。結果として、ついに3社目で量産分の印刷に入ることができました。しかしそこでも一筋縄ではいかず、「インドのプライドを見せてくれよ!!!悔しくないのか!!!このレベルでは次回の仕事を頼むことが困難だ。納得のいく物を仕上げないと帰れない。Pahiのデザイナーに見せられないいいいいい」と泣きべそをかき、その晩は寝付けず、社長さんに熱い思いのこもった長文メールを送り、このプロジェクトの終了を見守ってくれているクラウドファンディングCAMPFIREのパトロン様や受注をくださっている方がいることを伝えました。

熱意を人に伝えることはエネルギーを要する作業ですが、物を作り上げて行く上で重要な作業だと再確認。滞在残り2日となったところで、カラーマスターとして25年のキャリアがあるベテランがシフトをずらしてプロジェクトに入ってくれたため、スムーズに印刷が進むこととなりました。どの世界にも、その道のベテランがいるのですね。

本を作りにインドへ。モノづくりの旅レポートひたすらに手で帯をちぎる作業

手作業にこだわった本を作ることが一つの目的だったため、本の帯となるハンドメイドペーパーの両端の裁断も手で行うと決めていました。私もそれをちぎる作業をひたすら手伝いました。3社目の社長が私のメールを読んだのち、帯の色もそれぞれ表紙に合った色を提案してくれました。さらに、最後のページにあるポケットのカッティングもアレンジしてくるという、ありがたいハプニング。「エリ、これが僕のプライド、インド人の物作りだ!このカッティングこそインドの象徴!」と。熱意って、飛び火するのですね。思わずハグさせていただきました。

Pahiのデザイナーが「インド人ってデザイン画と違うものを作ってくるんだけど、それがまれに素晴らしいことがある」と経験を話してくれていたのですが、その事態が私の身にも訪れたんだな!と興奮しました。ただ、結果的に見た目は良いのですが機能性に問題が。マチが無いので何も入れられないというオチまで与えてくれました(笑)。

インド滞在最終日、飛行機に乗り込む4時間前まで作業は続き、最後はページをまとめ、背表紙に刷毛や素手でのり付けし、表紙の生地を張り、職人が素足で踏み(!)体重でのりを定着させ、3辺を機械でカットし整えて、最後にポケットをのり付け。このような工程を経て、ついに本ができあがりました。先行の60冊分は私がバゲッジに入れて持ち帰り、今は首を長くして残りの440冊の到着を待っているところです。最終回は、完成した本を披露しますね。

原田恵梨

原田恵梨
グラフィックデザイナー、フォトグラファー、アーティスト。現在、アクセサリーブランドpahiとのコラボレーションでアート本を作成するためインドに滞在中。

自己紹介
私は在日韓国人3世として日本に生まれた背景もあり、ボーダー(国境)やアイデンティティーとは何かを考える機会は多く、「生まれ育った環境の外の世界を知りたい」と、若いころより一人旅をしてきました。学生時代は日本画、服飾デザイン、グラフィックデザインを学び、現在はグラフィックデザイナー、フォトグラファー、アーティストとして活動しています。

( about DINER )

「どこで、だれと、なにを食べようか?」

DINERは「食事の時間」をテーマにしたウェブマガジンです。2014年春、Food & Design Postというニュースサイトとしてスタート。2016年春のリニューアルを経て、現在は東京の飲食店取材を中心に活動しています。2017年春には、ノンアルコール飲料ブランド「SHE LAUGHS」も始めました。